36協定届の作成にAIは使える?社労士事務所での任せ方と線引き
結論:様式への転記と自由記述欄の下書きは任せられる。延長時間の設定判断は資格者が行う
36協定届(時間外労働・休日労働に関する協定届)の作成は、様式への転記、事業場情報の整理、特別条項の理由欄・健康福祉確保措置欄の文章化といった部分はAIに任せられます。ただし、延長時間を何時間に設定するか、特別条項を使うべきかどうかという判断は、労働基準法の上限規制と顧問先の実態に照らして資格者が行うべき領域です。AIは「書式を埋める作業」までを担当し、「協定の中身を決める」ことは担当しません。
なぜこの線引きが答えになるのか
36協定届には、厚生労働省が定める様式第9号(一般条項)と様式第9号の2(特別条項)があります。事業場の名称・所在地、労働者代表の選任方法、対象期間、業務の種類、延長できる時間数といった項目は定型的に埋める部分が多く、AIによる下書き作成と相性が良い領域です。
一方で、時間外労働の上限は労働基準法により原則として月45時間・年360時間とされ、臨時的な特別の事情がある場合の特別条項でも年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満といった上限が定められています(厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」)。この上限に収まっているかどうかは機械的なチェックだけでなく、業種特性や適用猶予の有無、労働者代表の選任手続きの適法性など、個別の事情を踏まえた判断が必要です。ここをAIの出力だけで済ませてしまうと、届出が受理されない、あるいは労務調査で選任手続きの不備を指摘されるといった事態につながりかねません。
具体的にどう進めるか
実務では、AIに渡す情報と資格者が確認する情報を最初に分けておくと迷いません。
| 工程 | AIに任せる範囲 | 資格者が行う判断 |
|---|---|---|
| 事業場情報の整理 | 顧問先から受け取った基礎情報をもとに様式の項目欄を埋める下書き | 事業場単位で協定が必要な範囲かどうかの確認 |
| 労働者代表の選任 | 選任経緯・投票方法などの記録文案の整理 | 選任手続きが適法かどうかの確認 |
| 延長時間の記載 | 過去の協定内容や労働時間実績の要約表作成 | 上限規制に収まる延長時間の設定 |
| 特別条項の理由欄 | 「通常予見できない業務量の大幅な増加」等の定型文の下書き | 顧問先の実態に即した理由として妥当かの確認 |
| 健康福祉確保措置 | 措置の選択肢(面接指導、代休付与等)の整理・文章化 | 顧問先で実施可能な措置かどうかの確認 |
| 電子申請への反映 | e-Govへの入力データの整形 | 提出前の最終確認 |
手順としては、まず顧問先からヒアリングした労働時間の実績と延長時間の希望をAIに要約・整理させ、様式の各欄に落とし込む下書きを作ります。次に、特別条項を使う場合の理由欄や健康福祉確保措置の文章をAIに複数パターン作らせ、顧問先の業種・実態に合うものを資格者が選びます。最後に、延長時間が上限規制に収まっているか、労働者代表の選任手続きに問題がないかを資格者自身が確認してから提出します。この最終確認を省略しないことが、届出の受理可否だけでなく、後日の労務調査への備えにもなります。
顧問先の労働時間データや代表者の個人情報を扱う以上、守秘義務への配慮も欠かせません。学習に利用されない設定(オプトアウト)を確認したうえで、法人向けプランを使うといった安全策を組み合わせることをおすすめします。
筆者の自社運用
筆者自身、事務作業はずっと後回しにしがちなタイプで、請求書も「あとでやる」と言い続けていた時期がありました。今は案件が終わると請求書が自動で作成・送付される仕組みにしており、手作業がほぼなくなっています。定型書類を整えて送るという工程は、社労士事務所の36協定届の下書き作成にも通じる話で、型が決まっている部分ほど仕組み化の効果を実感しやすいと感じています。
やらない方がいいケース
次のような場合は、AIに任せる範囲を狭めるか、使わない判断も必要です。
- 労働者代表の選任経緯が曖昧で、適法性そのものに疑義があるケース:AIに文章を整えさせる前に、選任手続きをやり直す必要があります
- 過去に労働基準監督署から是正勧告を受けている事業場:延長時間の設定は資格者が実態を丁寧に確認したうえで決めるべきで、AIの定型文をそのまま使うべきではありません
- 業種特有の適用除外・猶予規定が絡む事業場:建設業や自動車運転の業務など特例が関わる場合は、AIの一般的な出力だけでは対応できません
- 顧問先の労働時間実績が未整理で、そもそも実態把握ができていない場合:AIに整理させる前に、正確な実績データを揃える工程が先です
最初の一歩
明日からできることとして、直近で作成した36協定届を1件選び、様式の転記部分と特別条項の理由欄の下書きだけをAIに任せてみてください。延長時間の数値と労働者代表の選任手続きは自分の目で確認する、という線引きを一度体験しておくと、今後どこまで任せられるかの判断がしやすくなります。
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