補助金の実績報告書はAIで下書きできる?行政書士が見るべき境界線
結論:下書きは任せられるが、経費の適格性判断は資格者の仕事です
補助金の実績報告書のうち、経費一覧表のたたき台作成や証憑の整理、事業実績の説明文の下書きはAIに任せられます。一方で、その経費が交付規程上の対象経費に当たるかどうかの判断や、按分計算の妥当性の確認は行政書士が行うべき領域です。ここを取り違えると、交付決定後の是正指導や補助金返還につながるリスクがあるため、線引きを最初に決めておくことが重要です。
なぜこの線引きが答えになるのか
実績報告書の作成で時間がかかるのは、大きく分けて「証憑を集めて整理する作業」と「その経費が対象になるかを判断する作業」の2つです。前者は見積書・契約書・納品書・請求書・支払い証憑を突き合わせて一覧化する定型作業であり、AIが得意とする整理・要約の範囲に収まります。後者は補助金ごとに異なる交付規程の解釈が必要で、同じ品目でも事業によって対象・対象外の判断が分かれることがあります。この判断を誤ると、交付決定額の減額や返還命令といった顧問先への実害につながるため、AIに委ねてはいけません。行政書士がこれまで培ってきた「この経費は交付規程の第何条のどの類型に当たるか」という読み替えの経験こそが、報告書の質を左右する部分です。AIはあくまで、その判断に至るまでの材料を整える役割にとどめる必要があります。
具体的にどう進めるか
実際の作業を「AIに任せる部分」と「資格者が確認する部分」に分けると、次のように整理できます。
| 工程 | AIに任せられる範囲 | 行政書士が確認・判断する範囲 |
|---|---|---|
| 証憑の整理 | PDF化した請求書・領収書からの品目・金額・日付の抽出、一覧表への転記 | 抽出結果と原本の突合、抜け漏れの有無 |
| 経費一覧表の作成 | 品目別・月別の集計、様式への流し込み | 交付規程上の対象経費区分との照合 |
| 事業実績の説明文 | 実施した事業内容の要約、時系列の整理、文章の下書き | 交付申請時の計画との整合性、成果指標との対応 |
| 按分計算 | 計算式のたたき台作成 | 按分根拠の妥当性、交付規程が求める算定方法との一致 |
| 最終チェック | 誤字脱字・表記ゆれの洗い出し | 提出前の総合的な適合性判断 |
進め方としては、まず顧問先から集まった証憑をスキャンしてPDF化し、AIに経費一覧表のたたき台を作らせます。次に、その一覧表を交付規程の対象経費リストと突き合わせるチェックリストを行政書士自身が作成し、対象外の可能性がある経費に印をつけます。事業実績の説明文についても、AIに事業の経過を時系列で要約させたうえで、交付申請時の事業計画との整合性を人が確認します。この順番を守れば、時間のかかる整理作業をAIに寄せつつ、判断が必要な部分に集中して時間を使えます。
なお、顧問先の証憑や事業内容には機微な情報が含まれることが多いため、AIツールは学習データとして利用されない設定(オプトアウト)や法人向けプランを選び、守秘義務の観点での安全策を必ず講じてください。
筆者はリノークという個人事業主として、経費の記帳を自分自身で回しています。以前は確定申告の時期にまとめて何時間もかけて領収書を整理していましたが、今は毎月ソフトに取り込むだけで10分ほどで済んでいます(※あくまで筆者の体感です)。この経験からも、証憑を集めて整理するという作業自体は仕組み化しやすく、時間を奪っているのは「判断ではなく作業」であることが多いと感じています。補助金の実績報告書でも、まずはこの作業部分から着手するのが現実的です。
AIに任せない方がいいケース
次のような場面では、AIに整理させた結果をそのまま使うのではなく、行政書士が最初から一つひとつ確認する姿勢が必要です。
- 対象経費かどうかの判断が分かれやすい品目:汎用性の高い機器やソフトウェアなど、交付規程の解釈次第で対象・対象外が変わるものは、AIの整理結果を鵜呑みにせず、規程の該当条文を都度確認してください。
- 人件費の按分計算:従事日数や従事割合の算定根拠は事業ごとに異なり、機械的な計算では実態と乖離するおそれがあります。
- 証憑の真正性の確認:見積書や請求書が実態を反映しているかどうかの確認は、AIには判断できません。
- 交付規程の改定が反映されていない場合:AIが参照する情報が古いと、現行の交付規程と異なる基準で整理してしまう可能性があります。必ず最新の公募要領・交付規程を人が確認したうえで作業を進めてください。
最初の一歩
次に控えている実績報告書のうち、1件だけを選び、証憑のスキャンと経費一覧表のたたき台作成だけをAIに手伝わせてみてください。全工程を一気に置き換えるのではなく、まず「整理」の部分だけを任せて、判断部分は今まで通り自分の目で確認する。この小さな切り分けから始めることで、どこまでAIに任せられるかの感覚がつかめます。
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